「性の喜びを知りやがって」おじさんは私のことかもしれない

釣り記事ととられないように、あらかじめ言っておくが、あくまで比喩である。

「性の喜びを知りやがって」というおじさんの正体が、これを書いている私のことだというわけではない。しかし、私自身、いつ何時「性の喜びおじさん」になってしまうかもわからない。そういう恐怖について、これから綴っていきたいと思う。

人間の狂気というものは、本人にすら自覚し得ないところで進んでいくものだからだ。少し長くなってしまうが、これから性のよろこびおじさんについて語っていきたい。

性のよろこびが「喜び」か「悦び」か「歓び」かあるいはひらがなのままかは議論の別れるところだが、個人的には「悦び」がしっくり来る。よって、以下では「悦び」に統一する。

「性の悦びを知りやがって」おじさんとは?

性の悦びおじさんは色んなところで話題になっている。

「性の喜びを知りやがって」とは、2016年9月頃、京王井の頭線の車内で撮影されたおっさんの独白である。

その魂の叫びとも言える独白は、「俺は女大好きだよ!」「Weekend Loverのくせに!」「あんなことこんなこと、ドラえもんみたいにやっとんだろ!」「月曜日のマンデーに!」など言語センスの高さに加え、黒ずくめの短パン姿に十字架のネックレス姿、更に西郷隆盛似の彫りが深く鋭い眼光の容姿が相まって、Youtubeに動画がアップされると同時に、瞬く間に話題となった。



性の悦びおじさんの文学性の高さ

とりあえず全文を引用しておく

性の喜びを知りやがって!お前許さんぞ!
性の喜びを知りやがって自分たちばっかし、俺にもさせろよ!グギィィィ!
コノヤロー…許さんぞ…自分ばかりしやがってよ…コノヤロー…
許さんぞこういうことは!


人の自由を剥奪しやがって。 性愛の自由を剥奪しやがって。
許 さ ん ぞ !


そして今度は何だ?女に相手にされんのだったら、ホモに転向しろかよ。バカじゃねえか?
ホモとかレズってのはいつも言うようにな、生まれた時から、性同一障害っていう、障害者なんだよ。
異性を愛せないという、病気なんだよ。なんで俺がそんな病気になると思う。
俺は女大好きだよ!何言ってんだ。あっ血が出てきちゃった…
チキショー…そんなに変なこと、出来るわけないだろう!チッキショー…


近頃はもうそういう風俗呼ばないと寝られんくなったじゃないかぁ。病気になったよ完全に。
不眠症なんだよ。女性の裸見ないとどうにかなるんだよ頭が。
そんなグラドルのな、あんな写真なんかで、おっさんが満足出来るか。
小学生じゃあるまいし、グラドルのやつなんかで。チクショウ。
何がグラドルの写真だよ。バカじゃねえのか…。
いい歳こいたおっさんがグラドルの、そんな若い子見て興奮するわけないだろ。馬鹿馬鹿しい。
いい加減にしろよ。グラドルですって、馬鹿にしてるよ。チッ…くっそぉ…


自分たち、お前たちには当たり前のこと俺はやっとらんのだ!ふざけんなよ。
週末には彼氏彼女の部屋に泊まりに行くくせに。Weekend Loverの癖に。冗談じゃないよ!
そして、そのWeekend Loverのために色んなことをするんだろ。「ああでもないこうでもない」って。クソ…。
あんなことこんなこと、ドラえもんみたいにヤっとんだろ。あんなことこんなことヤっとんだろお前。
あんなこといいな こんなこといいな」って言いながら、Loversやっとんだろ。Weekend Loverで。
んで月曜日の、Mondayに、そ、そ、そういうの、やったから、元気が出るんだろ!


私は文学を学んでいた人間なのだが、彼には間違いなくある種の文学性が備わっている。狂気ゆえの文学性というものが。
性の悦びをしりやがって」という一言のフレーズを抜き出してさえ、そこらの底辺コピーライターが一生かかっても生み出せないような、キャッチーさと深みを醸し出している。どういう形であれ、一言で大勢の心を鷲掴みにした文言であることは変わらないだろう。

そして、その後に続く言葉も、センスに溢れている。
「Weekend Lover(ウィーケンド★ラバー)」や、「あんなことこんなこと、ドラえもんみたいにヤっとんだろ」など、常人にはどうやっても思いつかないような発想の言葉のオンパレードである。


彼のような見た目で、ブツブツわけのわからぬことをつぶやく人間は数多くいる。そのようなものの多くは、動画にして共有し楽しむ気が起きないだろう。
「性のよろこびおじさん」の語彙力、言葉のセンス、面白さは群を抜いている。そのような意味では「左足壊死ニキ」のような目の引き方とは、また違ったものを感じる。何にせよ、2分あまりの彼のスピーチが圧倒的に面白いのだ。西郷隆盛にルックスが似ていることさえも、その面白さに拍車をかけている。

一体「性のよろこびおじさん」はどこで何をしていたのだろう?

私はなぜ彼が今においてブレイクしたのかに疑問を持つ。現在は中年である「性悦おじさん」にも、小学生だったころ、中学生だった頃、高校生だった頃があったはずである。ひょっとしたら大学に行っていたかもしれないし、社会人として働いていたこともあるかもしれない。
渋谷によく出没すると言うが、ある程度まともな仕事を持っていなければ、都内に住み続けることはできない。ましてや、彼は「風俗呼ばないと寝られんくなった」と言っている。風俗というものは、私も使用することがあるが、1回呼ぶだけでもかなりの値段がかかるものである。
しかも、安い風俗、1回3000円などのデリヘルであれば、もはや「鬼が出るか蛇が出るか」と言った感じである。(経験済み)グラドルを見て自分で致したほうがよっぽどマシなのである。

「性悦おじさん」がどれくらいの強者なのかはわからないが、それでも、1回最低で3000円を呼ばないと寝られないというのは、もはやセレブと言ってもいいかもしれない。

「性悦おじさん」の動画やツイッターでのリークを見る限り、まともに社会生活を営める人間には見えないが、しかし彼は現実に都内で生活しているのである。案外、喋りかけてみれば、会話が通じるのだろうか?
風俗だってコミュニケーションである。ある程度は女の子とやりとりをするわけである。常にあの様子だと、一つの店舗と継続的に関係を続けていくことはできないし、あそこは横の繋がりが強い業界なので、すぐにブラックリストに乗って使用できなくなってしまうだろう。

「性悦おじさん」が、お金を稼げる能力を持っていて(あるいは親が資産家か)、尚且つ女性ともコミュニケーションをある程度とれるという事実。……何か、狂気と現実を繋ぐものがあるのだろうか?


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底辺小説家……私の成れの果てが「性悦おじさん」なのかもしれない

語彙力というか、文章力には、自身があった。才能はなかったが、学生の頃からずっと鍛えていた。まったく売れなかったし、今となっては恥ずかしいものなのだが、本を書いて出版したこともある。
大学の同級生は、ほとんどが子供を持ち、少なくない給料を毎月手にしている。結婚生活は窮屈そうだが、退屈しのぎに月に2、3回くらいは高い風俗に行ける余裕があるそうだ。

そういう現実を見ると、時たま発狂したくなる。


一度だけあるのが、電車の中で、知らず知らずに声を出してしまっていたことだ。私は、電車に乗っているときなど、小説のアイデアをぼんやり考えていることなどがあるのだが、どういった経緯か、思い返すたびに「ウワアアアアアア」となってしまう過去の出来事があって、それを思い出していたのだ。
そのとき、思い浮かべたその過去の記憶に対して、「クソ!」か「許さんぞ!」みたいな短いフレーズを強く発してしまっていて、それで電車の中の人達の目を引いてしまったというわけだ。

それからは、自分でもかなり気をつけている。
しかしそれは、大なり小なり、「性悦おじさん」と同じことをしてしまったことを意味しないだろうか?


ちなみに、「性のよろこびを知りやがって」の人が私だったというオチならストーリーとしては面白いのだが、そんな長文を言った覚えはないし、私は「性悦」ほど強そうな見た目はしていない。腹が出てきてはいるが、色白で、剃っても目立つ青髭がコンプレックスの、冴えない中年オヤジである。


たしかに、「性悦おじさん」は、面白い。あれを見て笑うなというのは難しいし、ああいうのは笑ってあげられる社会のほうが健全だとは思う。

しかし私は、あれを見て、そして自分自身を省みて、恐怖を感じた。

「性悦おじさん」も、若かりし頃はまともだったのではないか。そして私自身、これから知らず知らずのように「性悦おじさん」のような言動をしてしまっているのではないか、という恐怖を。



ちなみに、私は女性経験がないわけではないが、今までの人生で「性の悦び」と言ったものを感じた記憶はない。そのことについては、また機会を改めて書いてみたい。


参考

keizaijin.hateblo.jp